桜色シャワー



 一緒に居た友達とはぐれ、来年入学予定(受かれば)の高校で開催されている学園祭で、私は迷子になっていた。
 この高校の制服を着ている在校生、その父母らしき大人、そして私のような下見をしにきた中学生。とにかくたくさんの人でごった返している場で、友達が探し出せるわけもなく。
 とりあえず、この人ごみから抜け出そうと思い、流れに逆らって人を掻き分けてゆけば、たどり着いたのは校舎の裏だった。そこはちょうど校舎の影になっていて少し薄暗い。
 やっと埃くさい場所から抜け出して、私はその疲れを吐き出すように、おおきく深呼吸をしてその新鮮な空気を肺に取り込んだ。
 いったい、これからどうするか。友達を探し出そうにも、方法が無い。彼女は携帯電話を持っているけれど、私は持っていなかった。もちろん、電話番号は知らない。連絡を取る方法がないのだから、とりあえず人目のつく場所に移動するしかない。彼女だってきっと私を探しているはずだ。こんな誰もいない校舎裏にいたって、決して彼女を見つけることは出来ないだろう。
 またあの人ごみを歩くと思うとぞっとするが、仕方が無い。私は引き返そうと身を翻して歩き出した。
 と、そのときだ。私の肩に何かが落ちてきた。たいした重みはなく、そのままストンと足元へ落ちてゆく。
 その感触は、続いて頭にも起こった。頭上にもぱらぱらとなにかが落ちてくる。そして更に陽気な声も振ってきた。
「ぱんぱかぱーん」
「次の“魔法倶楽部”、新人部員はオマエに決定―!!」
「えっ?」
 後方頭上から聞こえてくる声に、私は反射的に振り返り、そちらを見上げた。
 目の前に広がるのは、桜色の雨。ふわふわとゆるやかに、桜色の何かが私に向かって降り注いでいる。
 それは、造花だった。桜の花を模した造花。花びらだけではなく、五枚の花びらとおしべめしべが組み合わさった、ワンセット。それが何百と私へ向かって降ってくる。
 幻想的に降り注ぐ桜は、秋模様の空間を瞬間的に春に染め上げてゆく。造花であることも気にならないほど、その光景は美しかった。
「あのコ、きっと中学生だぞ」
「んー、まぁいいだろ。来年度、入学してもらえばいーしな」
 造花の発生源には、二人の男子学生がいた。片や金髪で派手な男。片や黒髪眼鏡の真面目そうな男。二人の手には青いバケツがあり、それから桜がこぼれていた。
 ふたりはこそこそと何かを話していたかと思うと、突然私に視線を向けてくる。
「キミ、“魔法倶楽部”に入部してくれるのか」
 黒髪の男が、そう尋ねてくる。だがその時、私はとにかく驚いていて。その桜色の雨に魅了されて正常に思考回路が働いていなかった。だから彼の言葉の意味なんて半分も理解せずに。
「はい」
 頷いてしまったのだ。




 桜色の雨は倶楽部へのパスポート。
 秋に笑った桜の造花は、数ヵ月後の春、ホンモノの桜の花へと変化を遂げて。
「ぱんぱかぱーん」
「よく来たなっ、新入部員。今日からオマエは“魔法倶楽部”の一員だぜ!」
 頭上に再び降り注ぎ、私を歓迎してくれたのだ。



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