刺激的炭酸デイズ
炭酸水の一気飲みには気をつけて
「「よーい、どんっ!!」」
幼稚園生の徒競走開始の合図のような掛け声で、二人は同時にペットボトルを持ち上げた。蝉の鳴き声とごくごくとペットボトルの中身が体内へと吸い込まれていく音が和音をなして、冷房の効いた涼しい音楽室に響く。
数十秒後、炭酸水を飲み干した結城和人(ゆうきかずと)は空になったペットボトルを唇から離す。その三秒後に、和人と炭酸水早飲み対決をしていた三上廉太(みかみれんた)のペットボトルも空になった。
「イエーイ!僅差で俺の勝ちだな。廉太は、バツゲーム“授業中、先生のことをお母さんと呼ぶ”の実行決定!」
「くっそお!俺、絶対負けない自信があったのに・・・。マザコンに見られちゃうよ」
落ち込み肩を落とす廉太と心底楽しそうにニヤニヤ悪い笑みを浮かべる和人。
本日は夏休み真っ只中の8月9日。この高校では8月の第二週目、授業の補習が行われている。廉太達が夏休みに学校にいるのはその補習に見事御呼ばれされてしまったからである。今日の補習はとっくに終了していたが、廉太と和人の大親友、相模海斗(さがみかいと)が補習ではなく生徒会の仕事で学校に来ており、その彼を待つために二人は学校でも珍しく冷房機器が完備してある音楽室でぐたぐたと遊んでいたわけだ。
「なぁ和人―。炭酸水さ、一本は海斗の分じゃん。で、もう一本は誰のなんだよ」
「そりゃ、俺の分だろ、普通。早飲み対決で勝ったのは俺なんだからな!」
「炭酸水は賭けてないだろっ!!そんなのセコイぞ!俺が飲んだっていいじゃんか」
窓際に置いてあった炭酸水二本のうち、片方を手にとって、廉太は言う。ペットボトルは急激な温度差によって水滴が浮かんでおり、廉太の手をしとどに濡らしてゆく。
「おい!かってに飲むなよ廉太!」
廉太は和人の言い分を少しも聞くことなく、ボトルキャップを開けようとする。が、和人がそれを許すはずも無く、ペットボトルの下部分を両手でがっしりと掴むと自分のほうへと引っ張った。それに対抗するように、廉太も自らのほうへぐいぐいと引っ張る。
そしてそれは体の重心をかけて引き合う、言わば綱引き状態へと発展した。廉太が優勢になれば、すぐに和人が引き返す。一進一退の攻防。
と、そんな拮抗した状態の場に、生徒会の仕事を終えた海斗が音楽室に入ってきた。
「ふぅ、疲れたっと。で、俺の分の炭酸水は?」
そう尋ねられて、戦いの最中にあった廉太、和人の両人は突然のことに考えが及ばず、とっさに手に持っていた炭酸水を海斗に手渡した。そう、二人の攻防戦によって振られてしまった炭酸水を。
もちろん、海斗がそれを知るわけも無く、平然とそれを受け取りキャップを開けた。
途端、ぷしゅううっと気の抜けた音。そして噴出す炭酸水の泡。それは海斗の目に直撃し、そのまま音楽室の床へと滴った。
「・・・廉太、和人。お前ら、これは仕事をしてきた俺への嫌がらせか・・・!?」
青筋の浮かんだ海斗の顔。廉太と和人はさっき一気飲みをした炭酸が、胃の中でぱちぱちと弾けている気がした。ちくちくとした痛みだった。
その後、廉太と和人は音楽の先生にこってりと絞られ、今後授業以外での音楽室出入りを禁止にされた。もちろん、残った最後の一本の炭酸水は海斗の胃に納まったのだった。
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