刺激的炭酸デイズ

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遊園地とは、総じて心を高ぶらせる場なのです

 秋も終盤、葉を全て落としつくした桜の木は存在感が殆どないのに何本も堂々と聳え立っている。少し肌寒くなってきたため学ランを着てくる学生も数多いが、教室は暖かいため殆どの生徒はイスにそれを掛け、ワイシャツで歩き回っていた。
 そんな生徒の一人相模海斗(サガミカイト)は目の前の机でうつ伏せになっている三上廉太(ミカミレンタ)とその横で野球雑誌に目を向ける結城和人(ユウキカズト)に一枚のチケットを突き出した。
「お前ら、これいるか?」
「それって、新しくできた遊園地のチケット!?すげー、そんなんどうやって手に入れたんだよ!」
 和人は雑誌を閉じると海斗からチケットを奪い取り、まじまじとそれを眺める。
 そのチケットはすぐ近くに出来た新しい遊園地のペアチケットで、日時指定ものだった。
「生徒会の仕事で夏休みも借り出されてた分の御礼だと。今更って感じだけどな」
 海斗はあの時は辛かったとばかりにため息をついて、自分のイスに腰を下ろす。
「11月3日かぁ・・・それじゃオレは行けないな」
 日付指定の日、11月3日は来週の日曜日だった。
「あぁ、また練習か?冬だってのに野球部はハードだな」
「まぁな。来年の夏の選手権でオレら三年最後だろ?だから春選抜はいい結果残しておきたいわけよ。受験なんて、甲子園の土を持って帰ってきてから考えるさ」
 ニっと口元を吊り上げると、和人は横ですやすやと寝息を立てる廉太の頭にチョップを食らわせた。
「だっ!!」
 額を勢いよく机の縁にぶつけた廉太は苦痛の声を漏らす。そして赤くなった額を掌でさすりながら和人を睨みつけた。
「いってーな!オレの睡眠の邪魔をするな!!」
「あと2分で予鈴鳴るから起こしてやったんだって。で、廉太。お前と海斗でここ行ってこいよ」
 チケットをひらひらと振る。
「え〜、オレあんま遊園地とか好きくない。人混み嫌い。砂っぽい」
「そうか。じゃあそのチケット、紅佐(あかさ)達にやろうかな。いらないならくれって言ってたし」
 元々、廉太と和人の二人にあげようと思っていたペアチケットだ。海斗自身は遊園地に行くつもりはなかったし、そのまま捨てるのも勿体無いだろう。
 放課後にでも渡すか、と海斗が鞄にチケットを仕舞おうとしたところ急に和人が口を開いた。
「待て待て!廉太、ここで断ったら絶対後悔するぞ!」
「・・・なんで?」
「この遊園地の名物って、ジェットコースターとかお化け屋敷とかじゃなくて食い物なの、知ってたか?いろんなところに出店があって、中でも一番人気なのがバーベキューチキンバーガーってやつで、なんと全長20センチ!マックのビックマックなんて目じゃない大きさなんだってさ!」
 食い物、と言った瞬間ピクッと動いた廉太はバーベキューチキンバーガーという単語で即座に机横のフックに掛かっている鞄に手をつっこみ、『ザ・食通11月号』を取り出した。
 雑誌はたくさんのドックイヤーが施されており、廉太は迷わずあるページを開く。そこには『全長20センチ超ビックバーガー○×ランド限定販売』という見出しで巨大バーガーの写真が見開きで写されていた。
「海斗!11月3日、朝8時に駅前な!」
 瞳をキラキラと輝かせる廉太はまさに餌を前にした大型犬のようだと海斗は思った。






 11月3日、10時30分。開園から30分経ち、やっとのことで入園した二人は廉太持参のガイドブックで道順を確めつつ、人混みを分け歩いていた。新しい遊園地である上、今日は休日。親子連れから仲睦まじい恋人まで様々な人が来園していて、某ネズミの国も目じゃないほどの混みあいだった。
「海斗ぉ〜。この人混みじゃ、ガイドブック通りに歩いても辿り着けないって例の店まで」
「しょうがないだろ。まぁゆっくり行けばいいじゃないか」
「それじゃ駄目なんだよ!あのビックバーガーは数量限定なの!そーるどあうとになったらどうしてくれるんだー!海斗が家でごちそう作ってくれるのかー!?」
「soldout。お前のカタカナ英語って絶対に外人に通じないぞ」
「いんや!『ホッタイモイジルナ』は通じたもんね!ちゃんと時間教えてくれたぞ、ジョンソン」
「ジョンソンって誰だよ・・・」
 二人はこんな会話をしながら、どんどんと人の波に流され、目的の店から遠退いていくのだった。




 同時刻、遊園地内某所。澄野瑛美(スミノテルミ)は大学生になる兄、澄野宰(スミノツカサ)と人の少ない道を選びながら歩いていた。
「テル、大丈夫か?」
 宰は瑛美の顔を覗き込み、顔色を確認する。初冬だというのに本日の気温は比較的高く、太陽が煌々と照りつけていて、帽子を被らない瑛美は直射日光にやられ、既にばてていた。
「お兄ちゃん・・・。ごめん、少し休んでいい?」
「ああ。じゃあ飲み物買ってくるからそのベンチに座ってろ」
 瑛美は言われたとおり、四人掛けの青に塗られたベンチに腰掛けた。ハンドバッグを膝の上に置きふぅと盛大なため息をつく。
 瑛美は遊園地というものが苦手だった。昔からインドア派であったのが祟ってか、日光にはめっきり弱く、長時間外を歩かなければならない遊園地などもっての他。17年生きてきて、遊園地に出向いたのはこれで3回目。一回目は覚えていないほど小さい頃で、二回目は小学校の卒業旅行だ。では、なぜ今日は遊園地に来ているのか。それには深い理由があった。


 それは今から1週間ほど前に遡る。
 瑛美は生徒会副会長を勤めていた。担任教師に生徒会選挙に出ないかと誘われ、断る理由もなく選挙に出馬。見事副会長に選ばれたのだ。生徒会の仕事というのは言わば雑用で、なにかイベントがある度に雑務を押し付けられる。中でも一年間で一番辛いイベント、文化祭の下準備は開催日から二ヶ月以上前から雑務に追われ、夏休みも制服を着込み学校へ向かわなければならなかった。そんな面倒な立場であったが、瑛美は生徒会が大好きである。それは仕事が、ではもちろんない。『カレ』と夏休みでも会えるという不純な動機だからだ。
 『カレ』こと、相模海斗(サガミカイト)は瑛美と同じ生徒会のメンバーで同級生だ。容姿端麗、成績優秀、品行方正。まさにパーフェクトと呼ぶに相応しいカレのことを好きになったのは夏休み前。
 それからというもの、つまらなかった生徒会が薔薇色の時間へと化したのだ。学園祭の準備はカレと一緒の時間を過ごす最大のイベントで全く苦痛ではない夏休み登校の果てに遊園地のペアチケットを貰う。なんと素晴らしき、生徒会。
 というわけで瑛美はこれを機会に新密度を上げようと、カレを遊園地に誘うことを決意したのだ。
「相模!話しがあるんだけど!!」
 放課後の会議後、瑛美は海斗を呼び止めた。少しばかり喧嘩腰なのは、瑛美の性格上仕方ないことである。
「なんだ?澄野。まだ決めなきゃいけないことあったか?」
「いや・・仕事の話じゃなくて・・・・・あっあの!相模は誰かと一緒に遊園地行くの?」
「あぁ。さっきの休み時間に誘ったら、行くってことになったんだ」
 いつもはあまり見せない笑みを浮かべてそう一言。そのときの瑛美の顔は今までにないほど驚愕していたはずだ。そう、なぜなら瑛美は考えたこともなかったのだ。カレ・・・相模海斗に恋人がいるなんて。




 本当は捨てるつもりだったのだ。もったいないけれど、沈んだ気持ちで遊園地に行くなど考えられなかった。けれどある日瑛美は思い立ったのだ。チケットは日付指定、ということは確実に11月3日にカレは遊園地に行く。・・・それはカレの恋人が誰であるか知るチャンスではないか。
 学校では恋人のコの字も見えないカレ。だから諦め切れない。ならば恋人とのデートを見ればふっ切れるのではないか。
 思い立ったら即行動。瑛美は電車を乗り継いで都心まで行き、一人暮らしをする大学生の兄の家を訪ね、チケットを渡したのだった。


 こんなことがあって、今瑛美は慣れない遊園地に来ている。けれどやはり早くもバテてしまった。このままこんなところで休んでいては、目当てのカレを見つけられないではないか。
「帽子、持ってくればよかったわ・・・」
 額に手を当てながらギラギラ太陽を睨みつける。だが雲ひとつない空は一向に太陽の光を弱めない。はぁと再度大きなため息をつき、瑛美は鞄の乗る膝に顔を向けた。下を向いていれば少しは違うかもしれない。
 ふ、と日光が弱まった気がした。雲が太陽にかかったのだろうかと顔を上げると、
「よ、澄野。やっぱり来てたんだ」
 見慣れた制服ではなく、私服のカレ・・・相模海斗が目の前に立っていたのだ。
「さささ相模!!うわっびっくりした!!誰かと思った!!」
「オレも、澄野私服の雰囲気全然違うから声掛けるの躊躇ったんだ。髪下ろすと可愛いな」
「っっっ!!べっ、別に!真顔でそんなこと言わないでくれない!!」
 きっと顔が真っ赤だと思いながら瑛美は片手で頬を摩った。
「澄野は一人で来た・・・・はずないよな。彼氏?」
「違うわ!!お兄ちゃんときたの。今あっちで飲み物買ってる。相模は?」
「オレの連れもあっちで飲み物買ってるよ。ほら今レジで買ってる人の3人後ろに居る」
 目を細めてそちらを見る。レジから三番目に立つ人は、背丈は瑛美よりちょっと大きいぐらい。だぼっとしたパンツにパーカー、スポーツキャップと随分ボーイッシュな格好をしている。
(相模の好みって、ああいうタイプなんだ・・・私とは大違い)
 自分の格好を見直してみる。白い花柄のワンピースに薄ピンクのカーディガンを羽織っている。髪が長いからボーイッシュな格好は似合わないのだ。
「へ・・・へぇ〜。あ、買い終わったみたいよ」
 いつの間にやら、三番目だったカレのカノジョは飲み物を買い終わり、両手に飲み物を持ってこちらに近づいてきた。
「海斗ぉ〜!見て!見てくれ!マヨキャベツジュース!新商品なんだってさ!はい、これ」
「そんな不味そうなもの買ってくんなっつの!」
 瑛美は目を見開いた。カノジョが居ると聞いた時もこれほどないというぐらいビックリしたが、これはその時以上だ。驚愕、驚愕、驚愕、驚愕。
「え・・・あ・・・三上・・・くん?」
「あ、副会長だ。よっす!」
 ニカッと笑って片手を挙げる、カレのカノジョ・・・・いやカレ。紛れもなくカレ。三上廉太はカレ、男。
 瑛美は立ち上がった。キッと海斗を睨みつける。
「・・・っ!!相模の・・・相模の変態!ホモ!サイテーーー!!」
 そして片手で掴んだハンドバッグをカレの頬に叩きつけた。
「お兄ちゃん、いこっ」
 タイミングよく、宰がやってきたのでそのまま宰の腕を掴み、その場を離れた。そして、意味が全く分からない海斗と、マヨキャベジュースを飲む、廉太だけがそこに残されたのだった。




 5時。日は暮れ、遊園地内は街灯で照らされた。
「・・・胃がムカムカする・・・・」
「おいしかったー!!」
 対称的な顔色をする海斗に廉太。二人はあの後、店を見つけるまでに2時間、3時間待ち時間、そして完食までに2時間を費やした。2時間も掛けるほど、バーベキューチキンバーガーは巨大で食べにくいものだったのだのだ。なぜファーストフードなのにナプキンが用意されているのか、海斗たちは身をもって知った。
 海斗は、遊園地のチケットを貰ったことに激しく後悔した。そして未だに痛む頬を押さえながら澄野はなぜ怒っていたのか考えていた。  
            

      



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