繋がらない
プロローグ 夜会話
身体のどこかにある回路に電流が奔る。午後11時。またパスは繋がった。
《今日は散々な一日だった。怪物に襲われたんだ。俺は帰りに真っ暗な道を歩いていた。後ろからガサガサと何かが近づいてくる音がした。最初は気にしていなかったが近付いてくるにつれて、息遣いが普通じゃないと気づいた。
俺はゆっくりと振り向いた。そうしたら真っ黒い何かが俺に襲い掛かってきた!地面に転がって、ガサガサした感触のものにのし掛かられた。俺は必死にもがいた。身をよじって何とかそいつを振り払って、立ち上がった。距離をとり、じっくり、そいつを見た。
足には白い毛が生えていた。四本足だ。そして頭には真っ黒なものをまとわり着かせていた。
そいつは、声を上げた。世にも恐ろしい声だ。俺が一番恐れている声だ。そう、そいつは―――
―――――――――――ワン、と鳴いた。》
「犬かよっ!!!!!!!!」
花も彩る17歳。今日もベッドの上で盛大にひとりツッコミ。
(どこかの誰かさん、私はもっと恐怖のあまりにのた打ち回るホラーを期待していました。それか猟奇スプラッタ。そんなオチじゃ誰も喜ばないです。3流映画もいいところです。きっとボロボロな映画館でしかやらないよ)
頭に響く声、誰が喋っているかも分からない声に、私は返事をする。もちろん頭の中で。今は繋がっている。だから声が届くはずなのに。誰かさんからの返事はいつだって返ってこない。
《そいつは黒いビニール袋を頭に被っていたみたいだった。俺は必死で逃げた。そいつは追いかけてきた。でも俺の俊足には適わず、途中で断念していた。俺はやっと危機から脱した。
犬に襲われるとは・・・今日は散々な一日だった》
どこかの誰かさんの声は随分と疲れているようだった。きっと全力疾走をしたんだろう。犬に追いかけられて。それはなんて滑稽な映像だろう。
私は想像して、ぷっと吹き出した。今日のどこかの誰かさんは饒舌だ。いつもは夕飯のピーマンの肉詰めが不味かった、とか一言なのに。そんなに、犬が怖かったんだろうか。
どこかの誰かさんは犬に襲われる恐怖について、それから5分も語ってくれた。
《なぁ。そこにいるかもしれない誰か。聞こえるか。》
そうして最後に、どこかの誰かさんはお決まりのセリフを口にした。
《俺は、いつでも返事を待っている。》
ブチっと、流れていた電流が切れた。完全に音が失われる。私と誰かさんとの繋がりはまた途切れてしまった。何度も何度も、自分から回線を開こうと試みる。でもだめ。繋がる先が見えず、いつまでも電流が到達してくれない。
「どこかの誰かさん」
届かないつぶやき。
「私は、いつでも貴方の声を聞いていますよ」
私も毎晩お決まりのセリフを口にした。
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