繋がらない
エピローグ 私と、パートナー
力の欠乏からの睡眠だったため、夢なんてものは見なかった。
重たい瞼を押し開くと、真っ白い天井に煌々と光る電灯が見えた。どう見ても我が家の天井ではない。瞼よりも重たい体を賢明に起こして、そこが学院の医務室だと気がついた。
「コロナ!!やっと起きたのね!!」
ぼーっとしていると、医務室の扉からシスカが入ってきた。いつも典麗なシスカの顔には安堵の念が伺い知れて、シスカに心配を掛けてしまったと分かった。
「ごめんね、シスカ」
「もうっ、心配させないでよね」
そんな言葉を掛け合って、笑い合う。私の一番の親友シスカは、冷たいように見えて、本当は凄く優しい、恥ずかしがり屋さんなのだ。
ほのぼのとした空気の中。私ははっと、思い出した。
「誰かさんは!!!」
そうだ、すっかり忘れてた。私、倒れる直前、誰かさんの目の前に居たのだ。声を掛けたくて、出会いたくて、でも身体が動かなくて。結局誰かさんはどこへ行ってしまったんだろう。
「落ち着いて、コロナ。まだあんた安静にしてなきゃならないんだから」
「でもっ」
「大丈夫。心配しないで。コロナのパートナーなら、まだここに残っているわ」
そう言ってシスカは視線を後ろへ投げかける。そこには、壁に寄りかかってこちらを伺っているテイト先生がいた。
「・・・なんで、テイト先生が?」
私は思わずシスカに問うた。理論の教員であるテイト先生がどうして医務室に。というかあの召喚獣と戦っていた時、先生は校舎の中に居たんだろうか。
そんな疑問を読みとったのか、シスカは問いの答えを語り始めた。
「九時頃コロナのお母さんから電話があったの。コロナがまだ帰ってないんだけど、知らないか、って。放課後、委員長と話があるって言ってたのを思い出して、私はすぐ委員長に連絡を取ったの。けど委員長は随分前に別れたって言ってて、他に心当たりのある場所がなかったから、学校まで探しにきたのよ。
そうしたら、正門前にあんな跡があるじゃない。何かあったんだと思って、校舎に明かりがついている部屋があったから、慌ててそこへ向かったの。そうしたら、この部屋にコロナとテイト先生が居たのよ」
いつもならテイトと呼び捨てにしているシスカだが、本人を目の前にしているのであくまで敬称を付けていた。
「それで、テイト先生に事情を聞いたの。まさか・・・・ね」
そこから、シスカは言葉を濁した。先を促しても、シスカは一向に喋ってはくれない。
まさか、誰かさんは大怪我を負ってしまったんじゃないだろうか。あれだけの召喚獣を一人で相手にしていたのだ。もしかしたら死に至る事だって・・・。
そこまで考えて、私は思い至った。そうだ、誰かさんと会いたいなら、回路を繋げばいいのだ。さっきまで不完全だった二人の回路は、完全に完成したのだから。
私はびりびりと回路に電流を奔らせる。いつもなら終点の無い回路を進み続ける電流は、やっとたどり着く先を見つけた。しっかりと、二人の間に繋がりが生まれる。
(誰かさん!無事ですか!?)
私の問いかけに、返事をしてくれるか心配だった。まだ繋がったことを信じられなかったのだ。
《ああ、大丈夫だ》
だがそんな心配は無用だった。誰かさんは、しっかりと返事をしてくれる。
(よかった。・・・さっきは助けてくれてありがとうございました)
「こちらこそ。おまえが居てくれて助かった」
私の感謝の言葉に、返事が返ってくる。そんな当たり前のことが、どうしようもなく嬉しくて、涙が出そうになって・・・ってアレ?気のせいかな、実際の声が聞こえた気がする。でもそんなのあり得ない。だってこの部屋にはシスカとテイト先生しかいないのだ。そんなこと、あるわけないあるわけない。
「現実を見なさい、コロナ。今、喋ったのは、確かにここに居る人よ」
私の思考を遮ったのは、言葉を濁し続けていたシスカだった。
「えっ、そんな訳ないよ。だってシスカのパートナーはディー君でしょう?」
「もちろん、私じゃないわ。コロナのパートナーはね」
そこで、壁に寄りかかっていたテイト先生が、私の寝ているベッドへと歩いてきた。そして。
「コロナ、お前のパートナーは俺だ」
先生は、ゆっくりと、でもはっきりと、そう言った。
「え、でも。そんなわけない・・・だって私は17歳で、先生は27歳で、そんなはず・・・」
パートナー同士は、誕生日前後2日程度で生まれてくる。だから、こんな年齢が離れているはずがない。絶対にないはずなのだ。
「じゃあ聞くが、お前の誕生日はいつだ?」
「6月31日ですけど」
「俺の誕生日は、6月31日。俺が生まれた年、その日に生まれた異端児は一人もいなかった。その翌年も、翌年も。それから10年後、お前が生まれた」
いままで当たり前だと思ってきた異端児の定義を覆す理論。
「俺だって、さっきまではそんなこと信じていなかった。だがそんな理論よりも確かに分かっていることがある。俺達は、紛れもなく、繋がっている」
先生は、私の手を取った。ぎゅっと握られるだけで回路がびりびりと疼く。心地よい波長、体温。私の身体は、確かに先生が“パートナー”だと伝えていた。
ぽろり、と涙が零れ落ちた。頬を伝って、真っ白なシーツに丸いシミをつける。
「なっ、何で泣くんだ!?そんなに、俺じゃ嫌か」
「そんなんじゃ、ないです」
その心地よいほどの温もりに、確かな繋がりが、嬉しすぎて、それで零れた涙。
私はずっと、パートナーを求めていた。孤独を埋める、温もりが欲しかった。
それを、私はやっと手に入れた。
「先生、私は11時、いつだって返事を待ってたんですよ」
握られている手のひらを、ぎゅっと握りなおして、涙に濡れた顔で先生を見上げる。
私の言葉に、目を見開く先生。私はさらに追い討ちをかけるように言葉を足す。
「今まで、先生は怖いって思ってました。でも本当は、可愛いんですよね。ホラーがだめで、ピーマンが食べれなくて、犬が嫌いで、それで」
「それ以上言うな!!!」
私の言葉を遮って、先生が蛮声を上げる。その焦りように、笑いがこみ上げてきた。
パートナーになって、先生の本当が垣間見れる。きっと昨日の夜に言っていたようにパートナーの私になら、全てを曝け出してくれるかもしれない。それはパートナー冥利に尽きるというものだ。
「先生。これからよろしくお願いしますね」
ベッドに腰掛けたまま、ふかぶかとお辞儀をする。まるで、お嫁に入るみたいな挨拶。
先生は、ただ驚いた顔をしていたが、表情を緩めた。授業をしているような顔ではなく、初めて見た年相応な表情で。
《あぁ、よろしく》
私だけに聞こえる、返事をした。
Fin
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